ファッション用語事典

ブライドルレザー – Bridleleather

ブライドルレザーのブライドルとは、本来、馬の顔に装着する馬具の事を指す。
元々、ブライドルレザーが馬具に用いられたもの、中世ヨーロッパの戦争に於いて、主戦場であった騎馬戦で、馬の命を守る為に、堅牢性と強靭さを備えた防具用の革が必要だったからである。
その為、ブライドルレザーには、最高級のフルグレインカウハイド(成牛の一枚革)が用いられており、原皮から仕上げに至るまで、およそ10週間という長い時間を要する。
樹脂や種子などの自然の草木によるフルベジタブルタンニン鞣しが行なわれ、その後、皮を十分に寝かせる。
革の深部にしっかりとオイルを染み込ませる為に、天然染料で皮の表面を染色し、タローと呼ばれる獣脂と、100%天然素材の密蝋をブレンドしたブライドル・グリースにつけ込み、獣脂を浸透させる。
こうした一連の工程によって完成したブライドルレザーは、10年以上も使用することが出来る堅牢性と、使い込むほどに鈍い色合いの独特の艶が出てくる特性を持つ。
ブライドルレザーの表面には白い粉が浮き出ている事があるが、これは染み込ませた蝋が浮き出てくるブルームと呼ばれるもので、本物のブライドルレザーである証でもある。
使い込めば使い込むほどに、革の奥に染み込ませた蝋が革の艶を引き立て、ブライドルレザー特有の味わい深い色と質感が持つ者の心を魅了するのだ。

ブライドルレザー製品で名高い、ホワイトハウスコックス社CEOのコックス氏は、イングランド南西部、ウェールズとの国境に程近いデヴォン州ホニトンにあるJ.&F.ベイカー社の作るブライドルレザーが、世界で最も優れた革だと断言する。
J&F.Jベイカーは1860年に創業の会社で、中世の時代より続いていたタンナーを買い取り、同地で稼業を続けている。
現在も創業当時と変わらぬファクトリーと機材を用いて皮の鞣しを行なっている。
ロンドンのジャーミンストリートに居を構える伝統的なビスポーク靴店やジョンロブ、ガジアーノ&ガーリングなど、英国高級紳士靴メーカーに靴の底材用のレザーを卸していることでも知られている。

同社の革作りには、途方も無い時間が掛かる。
通常のレザーで鞣すのに1年、ブライドルで約一年半もの時間を要する。
ベイカー社のあるホニトン近辺は、英国らしいのんびりとした、見渡す限りの田園風景地帯が広がる。
牧草地が広がり、原皮となる牛たちが飼われ、上質な地下の天然水がこんこんと湧き出てくる。
皮の鞣しに使われる、オークと呼ばれる樫の木も豊富に生い茂り、ベイカー社が使うオークもこの地元で取れたオークである。
ブライドルレザーが素晴らしいのは、単に革のクォリティーが素晴らしいだけに限らず、こうした英国の豊かな自然環境と伝統工芸の恩恵を一身に受けた、工芸品であることである。

ブライドルレザー/Bridleleather