ツイードの定義は「手紡ぎの紡毛糸を手織りで2/2の綾に織ったスコットランド特産の毛織物」となっており、秋冬には欠かすことのできない紡毛織物の代表的な生地である。
スコットランドはもとより英国羊には英国の土地でしか産出しない種類の羊が数多く生息している。
様々な色の毛が混在して成長するので、これで糸を作るとメランジ調の独特の味わい深い色が出てくる。
これをスコットランドのカントリーに住む農家が糸を梳き、手で一本一本丁寧に紡いで出来るのが本物のスコットランド・ツイードとして認められる。
そうしたプロセスを経て生まれたツイードは、見た目のざっくりとした印象と温もりがあり、それに反したしっかりとした腰と粗野でナチュラルな印象が、かつて古き良き英国のカントリージェントルマンや品の良い貴族たちがそれを身につけ郊外の領地で狩猟や釣りを楽しんだという風情を想起させる豊かな味わいがある。
「ツイード(tweed)」という単語が生まれたのは殆ど偶然の産物である、と「Windsor Revisited」という本の中で、“ウィンザー公”や“The Duke of Windsor”の名で知られるエドワード八世は述べている。
1830年ごろ、ロンドンに住む服地卸商を営んでいたマーチャントがスコットランド南東部のHawickという街のある会社からツイードに関する問い合わせの内容が書かれた手紙を受け取った。
その商人は手紙に書かれていた手書きの「tweels」という単語を見誤って、「tweed」と読んでしまい、手紙の内容をスコットランド南部のイングランドとスコットランドの境界に程近い、繊維で有名な地域を流れるTweed・River(ツイード川)に関する問い合わせだと勘違いしてしまった。
これ以降、ツイード生地はtweelsではなくtweedして200年近くもの間、親しまれているのである。
また、ウィンザー公によれば、彼の父であるジョージ五世や祖父のエドワード七世も英国の気候に最も適したツイード生地を大変好んで愛用していたとのことである。
ツイード川の流域には、タータンと並んでツイードを作りつづける小規模業者が連なっている。
そうしたツイード業者は軒並み環境の素晴らしさがツイード・デザインに最適だと口を揃える。
美しく澄み切った青空、これ以上に無いというほど透き通ったインクブルーの水、ヒースなど草花が溢れる緑豊かな大地。これらの集積がスコットランド伝統工芸品のツイードとなるのだ、と。
このあたりのツイードを「ボーダー・ツイード」という。
そして北部スコットランドの産出ツイードをまとめて「ハイランド・ツイード」と呼び、海を越えたヘブリディス諸島の中のハリス&ルイス島で作られる特産ツイードを「ハリス・ツイード」と規定している。
ツイードはその出自と、純朴でいかにも英国のカントリーテイストといった雰囲気がクラシックな印象を与える。
特に秋冬もののジャケット生地として用いられることが多く、英国的な雰囲気を味わうのに最適な生地の1つと言えよう。
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