タータンとは、スコットランド特有の多彩な色が縦横に交差した柄のことを指す。
英語のTartanはフランス語の動詞で「布を織る」という意味のtirerから派生したtiretainを語源とする。
また、スコットランドの土着語であるゲーリック語ではブレアカンとも言い、「たくさんの色合い」を意味する。
日本語で一般的なタータン・チェックという言葉は和製英語であり、本国スコットランドでは単にタータンと呼ぶ。
北米ではプレイドとも言うが、これはゲーリック語で「ブランケット」を意味する“plaide”に由来している。
plaidという単語も正確には、19世紀頃迄、ブランケットのような長方形型やタータン柄の衣料品を意味し、タータン自体は、直角に編みこまれた格子柄の織り物を意味するsettと呼ばれていた。
そもそもタータンはスコットランドを二分するグレート・グレン渓谷の北部、高山地のハイランド地方の伝統的民族衣装であるキルト、ゲール語ではフェーリアと呼ばれる16世紀から続くスコットランドの伝統的な男性民族衣装の柄を起源としている。
現在ではハイランド地方だけでなく、スコットランド(厳密にはセルティック、又はゲーリック)全体の文化に根差した柄として、キルト同様、スコットランドを象徴する文化的遺産となっている。
17世紀になると、タータンに身を包んだ姿を絵画に残すハイランド人が現れるようになった。
また同時期に、軍隊や傭兵団などで同柄のタータンを身に着け、シンボリックな意味合いを持たせることも行われた。
18世紀中頃以降、スコットランドの英国化政策による民族的な文化を禁ずる様々な法律が施行され、その中には勿論、伝統的なゲーリック文化を表すタータン柄も含まれていた。
それから100年が経過した19世紀中頃以降、それぞれの家族や家柄ごとを表す独特のタータンを定め、それぞれの家の者は自身の家を表すタータン柄の服飾品を身に纏うようになった。
その為、逆説的ではあるが、家柄や家系よりもむしろタータン柄の方が、その家がどんな家柄なのかを表す、日本の家紋に相当する重要な象徴的役割を果たしてきた。
それぞれのタータン柄には、ハイランド地方それぞれの家や地域と密接した関係があり、その土地でしか入手できないような自然染料や独自の染め方が施された。
どのタータン柄が、どの地域出身で、どういった階級の人間かが一目瞭然となった。
こうしたタータンはクラン・タータンと呼ばれ、20世紀前半までに定着していった。
現代に至っても、タータンはその歴史的意義から様々な国や州、地域、民族、或いは軍を表す象徴的な柄として、旧大英帝国圏の国々を中心に使われている。
例えば、カナダは国家それ自身が独自の公式なタータン柄を所有している。
また、カナダ国内のそれぞれの州や市町村にも独自のタータン柄が存在している。
アメリカ合衆国やスコットランドもその例外ではなく、多くの州や自治体がそれぞれ異なった柄のタータンを掲げている。
数多く存在するタータン柄の中でも最もよく知られている柄はロイヤル・スチュワートとブラックウォッチである。
ロイヤルスチュワート柄は、上品な赤地にグリーンとブルーの中細ライン、ホワイトとイエローの細ラインがアクセントになっている柄で、1371年にロバート2世によって興されたヨーロッパを代表するスコットランド王室を表す柄である。
また、英国女王エリザベス1世を表す柄でもある。
女王陛下の家臣たちはロイヤルスチュワート柄のタータンを着用することによって、エリザベス1世への忠誠心を示す。
世界的に有名なデザイナー、ヴィヴィアンウエストウッドは自身のコレクション中で、頻繁にロイヤルスチュワート柄を多用し、エリザベス1世へのオマージュを表している。
現在、公式なロイヤルスチュワート柄は、スコットランド騎兵連隊、スコットランド守衛兵などがエリザベス女王からの許しを得て制服の柄に使用している。
ファッションの世界では1970年代の終わり頃、パンクロックのムーブメントが隆盛を極めていた時代、スコットランド出身のロックバンド達が、自身の出自とイングランドへの反骨精神を象徴する為に着用し、多くの若者たちがそれを受け入れた。
ブラックウォッチ柄は、気品あふれる深緑地に濃紺色の太ラインと黒の中細ラインの格子柄が圧倒的な伝統を感じさせる。
歴史に裏打ちされた威風堂々たる風格を醸し出し、「ザ・ブラックウォッチ」の愛称で呼ばれるスコットランド王室歩兵連隊の柄である。
“Government sett”又は“ Campbell tartan”の名でも知られている。
その歴史的背景から、現在でも旧大英帝国圏の国々の軍隊に利用されることが多い。
スコットランド王室歩兵連隊は、2003年のイラク戦争に於いても、イラク現地で戦闘任務を果たすなどしている。
このスコットランドの文化的遺産のタータンを、その歴史的意義や存在価値を忠実に且つ正確に咀嚼し、体現するメーカーはジョンストンズをおいて他に並ぶものはない。
誰もが知る王室御用達でありながら、その製法は創業の1797年以来、殆ど変わることなく、今でも最上級のウールやカシミアを使った服飾品を世に送り出している。
2008年には英国王太子ことチャールズ皇太子が夫人のカミラを伴い、スコットランドのエルジンにある、ジョンストンズが総工費150万ポンド(日本円で約2.3憶円)を掛けて、家具プロダクツ製造の為に建設した「ジョンストンズヘリテージセンター」のこけら落としを執り行われた。
その時のチャールズ皇太子の服装は、上半身は実に英国らしい素材はウールと思われるカントリーグリーンカラーのジャケットとベストに、レジメンタルタイを締め、下半身はスコットランドとエリザベス1世への敬意を表す為にロイヤルスチュワート・タータンのキルトを着用する、という正に英国人の理想とすべきスタイルであった。
これだけの事実でも、今尚ジョンストンズが英国王室からの寵愛を受けていることが容易に知れる。
日本では、マフラーやストールの柄に使用されることが多い。
英国的な暖かみのある印象が強く、秋冬には欠かせない柄となっている。
|