ファッション用語事典

ゴム引きコート Rubber Coat

ゴム引きコートとは、グラスゴー生まれの英国人科学者で、マッキントッシュ社の創設者でもあるチャールズ・マッキントッシュが、発明に成功したゴム引きと呼ばれる特殊な素材を用いたコートのことである。

幼少時代より、化学の虜となっていたチャールズ・マッキントッシュは、自身の生まれ故郷でもあるグラスゴーの工員として働いていた10代のころから、様々な数多くの化学的実験を友人たちとともに行なっていた。
そうした実験の中で、彼は、後のゴム引き生地製造方法の雛型となる、タールとナフタを1つに混ぜ合わせて作る、防水性の生地の製造実験に成功していた。
この製造方法を更に改良し、剛質性に富んだ2種類のインド産ゴムを混ぜ合わせ、そのゴム生地にナフタを化学反応させて、防水性の高いゴム生地を発明した。
チャールズ・マッキントッシュはそれを「ラバークロス」と呼んだ。
これが現在でも使われているゴム引きコートの元となるゴム引き生地の製造工程である。
だが、当初のゴム引きコートは、品質に数多くの問題を抱えていた。
生地はごわつき、固過ぎて着用出来ないこともあった。
或いはゴム特有の悪臭を放ち、気温の高い日にはゴム生地が溶け出してしまうことさえあった。
そうした問題を解決する為、「Vulcanization」と呼ばれる画期的な方法が考案された。
ゴムを加工する際、弾力性や耐久性を高める為に、硫黄を加え、加硫する。
こうすることで、飛躍的にゴムの耐久性や伸縮性が高まり、着用時の不快感やゴム生地が溶けてしまうといった、諸問題を一気に解決したのである。
これをきっかけに、マッキントッシュ社は、現在の同社の成功の基礎となる第一歩を踏み出したのだ。
当時、防水用の生地といえば、キャンバス地に油を塗って、撥水性を若干増したものしかなかった為、防水性に富んだマッキントッシュ社のラバークロスは、全英中に衝撃を与えた。
特にコートを常用する英国上流階級の人々の間では、乗馬に用いる際のライディングコートとして人気を博した。
また、その防水性と、生地の剛質性を生かした防寒性の高さから、英国陸軍将校クラスや英国国有鉄道といった人々からも好評を得た。

現在でも尚、マッキントッシュのゴム引きコートは、当時と変わらない製法で、スコットランドのグラスゴーに程近い、カンバーノールドにある工場で作られている。
生地の裏には防水テープが張られ、ライニングやポケットなども接着によって取り付けられ、完全な防水仕様である。
こうした工程の要所要所で、熟練した職人がグル(Glue)と呼ばれる接着剤を指に付け、生地全体に伸ばし、パーツを貼り付けて、繰り返し丁寧にローラーを掛け、乾かすという作業を行っている。

ゴム引きコートには、野暮な防水用のレインコートと言ったイメージが付き纏い、ファッションコンシャスなイメージが弱かった。
しかし、近年のゴム引きコートは、そうしたイメージを覆し、着丈をショートに、身頃はタイトにモダナイズされている。
特徴的なAラインのシルエットを絞り込み、Iラインに近いシルエットで、ジャケット代わりにシャツやニットの上から羽織れるスタイリッシュなコートとして進化している。
デザイン面に於いても、モードやメゾンのOEMとして培ってきた経験を生かした巧みなデザインが多い。
腰回りにベルトを取り付けてレングスを長く魅せるものや、着丈を大幅に削り、フロントをボタン仕様に変更することで、すっきりとしたシルエットに見せるもの、或いは襟を台襟仕様にし、前振り袖のデザインを変更し、よりテーラード感のあるジャケットコートと言った風合いのものなど、コンテポラリーでかつ豊富なデザインがある。
またカラーバリエーションも、従来のモノトーン色だけではない、鮮やかな色合いのものや英国的なクラシカルな柄など、富に揃えている。
春夏のゴム引きコートには、パステルカラーやペールトーンなど、鮮やかな色合いのもの、ギンガムチェックやブラックウォッチ柄のタータンチェックなど、英国紳士らしい凛々しさがありながらも、フェミニンな雰囲気も取り入れた柄もある。
秋冬のコートでは、ウールやキルティングのライニングを取り付け、真冬でも着用可能なものやディープパープルやワインレッドといった、秋冬らしい季節感のあるシックで落ち着いた色柄もある。
こうして現在のゴム引きコートは、従前のイメージとは打って変わった、新しい魅力や発見が満載の、新鮮かつ最もインパクトの強いコートとして、その地位を確立している。

ゴム引きコート/Rubber Coat